アース製薬 × SOOTH の「香り」ニューロマーケティング調査

Columns

アース製薬 × SOOTH の「香り」ニューロマーケティング調査

  • INSIGHT Research
  • 2019.03.26

SOOTHは、アース製薬が発売したお部屋用の消臭芳香剤「お部屋のスッキーリ!Sukki-ri! プレシャスソープの香り」(以下「スッキーリ!」)の消臭効果に関する消費者調査にて、VRによる環境再現と、脳波計測・解析によるニューロマーケティング調査を行いました。(プレスリリース
脳波から人の実感を客観的に捉え活用した今回のプロジェクトを統括するアース製薬の小野里賢治氏(写真中央)、新堂徒夢氏(写真左)とSOOTH代表取締役の額田康利(写真右)が、その目的や背景、プロセスについて振り返り、語りました。

出発点は「トライした結果ダメでもよい、挑戦することが大事」

額田:2017年12月の出会いからリリースに至るまで、非常に濃密な時を過ごさせていただいたお客さまです。様々な壁を一緒に乗り越えていただいたことに深く感謝しています。今回のプロジェクトで目指したこと、そのきっかけから振り返っていただけますでしょうか。

小野里:プロジェクトの目的、背景を思い返してみて、2年近く前になりますが、2017年の6月に、当時のマーケティング本部長からの「ニューロマーケティングをやってみたい、トライしてみてくれるか」というきっかけで始まりました。私は20年強マーケティングに携わってきた中で、ニューロマーケティングは10年以上前、最初の会社の時に一度ブームが来ましたが、その時は何もやらなかった。2社目の時に、他部署がニューロにトライしたことを聞き、面白そうだと感覚的に興味を持ちました。アース製薬に入社してからは、ニューロへの取り組みについて話に出してはいましたが、関係する調査会社に特にソリューションもなく手つかずのまま2年が経ちました。そこに先の本部長からの提案があったわけです。

弊社の社長は、トライした結果ダメでもよい、挑戦することが大事、という柔軟な姿勢で背中を押してくれます。そこで「デジタルサイエンスラボ」というチームを作り、3名体制でスタートしたんです。それが2017年9月です。手探りの状態で着手する中、別の調査会社とさっそく調査を実施し、ニューロへの肌感をつかみました。そして、同年12月の大きな会議においてラボの発表をする良い機会を得ました。その中で、無意識下の反応を数値化して見えないものを価値にしていくことへの興味、面白さを説明しました。

その後も、他の調査会社にお声がけしたり、情報を色々収集してきた中でSOOTHさんとの出会いがありました。

額田:そこでVRをご紹介し、これと脳波を組み合わせる考え方を説明させていただきました。これまで他にはなかった提案だったと思います。

小野里:単にニューロを取り扱うだけでなく、さらにVRという要素が加わっているということがとても斬新で、魅力的に感じました。単純に面白いかどうかだけではなく、新たなチャレンジを社外・社内問わず視覚的に見える化することがとても重要で、SOOTHさんはやっていることが分かりやすかった。そこで一緒に取り組んでいこうと決め、予算を確保し、スケジュールをつめていきました。

額田:我々は難しそうな脳波データを実用化、商用化に繋げる翻訳者、架け橋になりたいと思い取り組んでいます。今回のプロジェクトの中でそれが一つ実証できて、本当に良かったと思います。

香りと脳波の関係、今後の展開

小野里:弊社が様々な生活カテゴリーに関わっている中、特に家庭まわりの商品を強化したいことから、今回の実査は注力アイテムである消臭芳香剤「スッキーリ!」に着目したのですが、その根底にはまず「香り」という切り口がありました。これを客観的にどう捉えたらよいか、ということが脳波の活用に繋がりました。入浴剤等も含め対象について一緒にいろいろ議論させていただきましたが、その際、お風呂のVR環境映像も見せていただきました。非常にクオリティが高く、実査にとても有効であると思いました。AOI Pro.グループで培われた技術は、とても魅力的に感じました。

新堂:今回取り組んだ「脳波」と「VR」と「香り」の3つの組み合わせは他に例がなく、特にVRについては、技術者の視点からすると脳波計測の際にノイズが乗りやすいのでは、と思っていました。実際には脳波計測のノイズ除去技術が高いばかりでなく、逆にVRが今回の調査に対してはノイズを減らすことに有効であったことが良かったです。ニオイの調査のため、香りを嗅ぐ時に多くの方が目を瞑っていました。そうすると実際の生活環境でニオイを嗅ぐ状態とは異なりますし、リラックスを示すα波が優位に出て、ノイズとなりました。それを抑制するためにも開眼状態にするべくVRを使用することは意義のある点でした。「脳波」と「VR」と「香り」のそれぞれの良い点をバランスよく取れたのではないかと思っています。

額田:ありがとうございます。今回のニューロの活用について、消臭芳香剤をはじめとする成長市場への今後の展開等のお考えがあれば教えてください。

小野里:実査を経験し、ニューロマーケティングの可能性を改めて感じています。各製品カテゴリーが抱える課題解決への活用、またその活用の方法もブランディングやプロモーション等を含め沢山あると思います。今後、各カテゴリーのブランド担当と話をしながら、今回の知見を活かすことになっていくと思っています。

チャレンジングな要素「今まで氷山の一角しか見えなかった気持ちへのアプローチ」

額田:脳波だけでなく人間が刺激に対して反応したさまざまな現象やデータを、クライアントにとってどの様な形で価値化していくか、生活者のどんなメリットに繋げていくかが課題と認識しています。生体反応データに対する価値感や予算化が確立しつつある中で、伝統ある御社でも今回の予算確保やプロセス調整でのご苦労があったと思います。

新堂:プロセス調整という点では、香りは弊社の色々な商品についているので、まずはカテゴリーを選定することが最初の業務でした。チーム内でディスカッションし、出した案を本部内で共有し、選定する。何度も打ち合わせし、どの商品カテゴリーで進めていくか結論までにかなり時間がかかり、悩みました。

額田:実査が終わった後にとても印象に残っていることがあります。取り組みのスタート当初は「アンケート結果を拠り所として脳波をクラスタリングしよう」と分析の手法を仮定していましたが、分析当初の段階で小野里さんが「アンケ―トは一切無視してください。今回は脳波から何を見いだせるかが重要です」と仰っていただいた。このひと言から、既存の取り組みのみならず、脳波に賭けるチャレンジングな強い意気込みを感じました。結果、リリースの中でも脳波分析とアンケート結果は切り分けて言及されており、このことは我々の大きな自信に繋がりました。

小野里:あの一言を深く受け止めていただいたことは、大変嬉しいです。私もとても勇気がいりましたから。

額田:そのぶれない覚悟の源泉は、何だったのでしょう?

小野里:今回の取り組みを、そもそも決めた理由にあります。本気で脳波に向き合い、脳波データによって「今まで氷山の一角しか見えなかった気持ちへのアプローチ」、つまり「分からない、定かではないことの可視化」にチャレンジすることです。既存の調査方法に新しい方法論を加えてみることで、それらを使い分けていく手段やその重要性も見えてくる。そのアプローチが確立されていけば、社内だけでなく、お得意先様やその先のお客様に対して必ず価値をもたらすはず。そのようなことを願って今回は「脳波から分かるもの」に注力しました。また、SOOTHさんならやりきっていただけるだろうと信じていました。

額田:ありがとうございます。とても勇気をいただきました。一方で、今振り返って改善できたと思われる部分を教えていただけますか。

小野里:御社のために改善点を申し上げたい所なのですが、本当に期待以上でした。あえて言えば、ニオイ呈示装置がギリギリまでその完成が見えてこなかったのはドキドキしました。結果的に素晴らしいものをつくっていただきました。脳波解析については相互で議論しながら学術的見解も適切に反映してまとめていただきました。

額田:ニオイ呈示装置をゼロからつくり、捉えたデータを分析することは、とても大きな財産になっています。機械学習を使用しない地道な解析作業でしたが、現段階で仮説の奥までたどりつくには、これは非常に重要な作業プロセスだったと思います。そこを一緒にやっていただける企業様はまだ少ないですし、産官学連携でも学術機関のやりたい気持ちと受け入れる企業様との足並みがなかなか揃わないという話も聞く中で、御社と着実、確実に連携して仮説を検証し結果を出せたこの1年半は、感慨深いものがあります。

小野里:そこは私たちも同じです。全く経験がない所からのスタートだったので、トライしてどんな結果がでるか未知数でしたが、粘り強く対峙しながら、一緒にローンチするという目標を達成できました。

額田:ご期待以上に応えることができたとのこと、まことにありがたく感じています。

学際的な専門誌への発表、リニューアルの商談材料に

額田:今回の成果は、学際的な専門誌である「AROMA RESEARCH」(アロマリサーチ)へ掲載予定と公表されています。その経緯や執筆のご苦労をお聞かせください。

新堂:このプロジェクトが始まった時、脳波と香りに関して世の中にどのような調査結果があるのかを知る必要があると考え、アロマリサーチを含めた論文誌全般を調べ読み、調査の参考にしました。簡易脳波計を使っている事例も投稿されていました。投稿者は学術機関だけではなく、企業も多かったです。一方読者の方は、大学や企業はもとより、アロマテラピーの資格を持っている一般の方も含まれ、香りに関することをアピールする媒体としてアロマリサーチはとても良いと考えていました。幸いにも結果が良かったので、公表準備に取り掛かり、無事にアクセプトしていただけました。

額田:今回、気分の安定度が21%高まったという数値のインパクトはどうでしたか?
特に、ブランドチームの方の反応を中心に教えてください。

小野里:ブランドチームとしては商談材料として営業に持たせてあげられたことが大きかったと思います。商談時に今回リニューアルした「スッキーリ!」を提案する際、まったくの新製品ではないので、このトピックスはとても役に立っています。小売りの皆様にも同様に説明できました。

人間の活動の大部分である無意識領域を捉えていく

額田:ニューロマーケティング市場や実例に着目していますが、サービス、製品の改善に活かした新しい切り口の例は、世の中にあまり公開されていない印象です。

小野里:実例はあると思います。取り組んでいるものの、効能や効果に関連する内容でないと積極的に生活者に対しコミュニケーションがしにくいのだと思います。我々はこのような先進的な取り組みをしていること自体を、学会も含め、どんどん世の中に発信していけたらと思っています。また、調査市場におけるニューロの位置づけも上がっていると思います。

額田:ブレインテックというキーワードのグローバルな市場規模では、2024年までに5兆円規模になるだろうと予測されています(2018年三菱総合研究所調べ)。

小野里:マーケティングにおける脳波の活用事例がもっともっとオープンになると、市場の規模や活用領域は変わってくるかもしれません。

額田:企業がマーケティング上の意思決定をするために脳波を含めた生体反応データと向きあう例は、海外の企業には見受けられます。今回の取り組みがきっかけとなって、日本国内でもこういった試みが拡大していけば嬉しい限りです。

小野里:はい。今まで見えなかった人の感情を数値化できたこと、という本質を中心に、その目的や背景、実施した内容を添えて大事にプロモーションしていきたいと思います。

額田:人間の活動の9割は無意識であるといわれており、残りの1割に多くのマーケティングコストを費やしている中、今年はニューロマーケティングが注目される大きな転換点になると思っていますが、今後のことも含めたご感触はいかがでしょう?

新堂:世の中に前例がない、発想がないものは根気強く続けていくことでスタンダードになっていくものと思います。今は、そのスタートラインに立っているという実感があります。

小野里:人間の活動の大部分である無意識領域を捉えていくことで、課題解決方法としての選択肢を広げていける可能性があると思います。また、今回の取組みのように発信していくことが本当に大事ですし、同時に、それによって描けることや実現できることを経営陣に伝えていくことも大切だと思っています。

額田:小さな所から一歩ずつ根付かせていくこと、我々も着実に推し進めます。商品やサービスへの共感をこれまでとは違う軸で得ていくことは、これからのマーケティングにおいて極めて重要なことだと思います。今回は脳波とVRを使いましたが、我々はさらに幅広い提案ができる会社でありたいと思っています。これをきっかけに御社の次なるプロジェクトにもSOOTHの独自性を生かしてお手伝いができればと願っております。本日はありがとうございました。

プロフィール

小野里賢治
アース製薬株式会社
マーケティング総合企画本部 マーケティングプランニング部
部長補佐

早稲田大学卒業後、製薬メーカーに入社。3年間営業を経験した後にマーケティング部に異動し、以降13年ブランドマネージャーとして複数ブランドのマーケティングを担当。その後外食企業でのマーケティングマネージャーを経て、アース製薬に入社。マーケティング本部にて、ブランドマーケティング部やプランニング部に所属し、売上と利益を上げる仕組み作りに従事している。


新堂徒夢
アース製薬株式会社
マーケティング総合企画本部 マーケティングプランニング部 リサーチ課

東京大学大学院卒業後、2011年アース製薬入社。研究開発本部研究部にてバスロマン、ウルモア、温素、発泡入浴剤等の研究や、知的財産業務を担当。2018年より現部署にてニューロマーケティングを担当。大学院では脳科学研究に従事しており、商品価値に対するヒトの感性を見える化することに興味を持ち、取り組んでいる。

額田康利
SOOTH株式会社 代表取締役 CEO

慶應義塾大学卒業後、みずほ銀行で21年間、法人営業、経営企画、人事、新サービスの企画開発等に従事。 2013年AOI Pro.入社後はグループ経営戦略を担当し、2017年から2018年にかけて常務執行役員として事業部門副統括、体験設計部管掌を担当。 2018年に体験設計事業に特化したグループ会社としてSOOTHを設立し、データを活用したソリューション提案を行う高付加価値ビジネスの展開に邁進している。

All Columns