芝浦工業大学 大倉教授 × SOOTHの取り組みがスタート

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芝浦工業大学 大倉教授 × SOOTHの取り組みがスタート

  • INSIGHT Research
  • 2019.02.28

バーチャルリアリティを利用したインタラクティブシステムや感性情報処理を研究分野とする芝浦工業大学の大倉典子教授がSOOTHにジョイン。SOOTH代表取締役の額田康利と生体反応から感情分析や感性評価をする意義について語りました。

マーケティングに感情を結び付ける重要性と期待感

額田:昨年、幕張メッセでのイベント デジタルコンテンツEXPOに展示した、SOOTHの脳内モニターを体験して頂きました(ご参考:Columns『「脳内モニター」の分かりやすさ』)。

大倉:はい。せっかくイベントに行ったので、面白いものを探していました。脳内モニターの絵が興味深く、感情の配置に意味があるのかなぁと思って声を掛けました。最初は、色んな感情が脳内の位置にプロットされていくのが画期的だと思い、その根拠を聞こうとしたんです。大きさによる感情の表現はなんとなく把握ができました。

額田:以降、感情分析の根拠を中心にアドバイスを頂けることとなり、大変心強く思っています。

大倉:SOOTHは私がこれまでできていなくてやってみたかったことに取り組んでいます。感性は大事なのに、なかなか工学の研究ターゲットになっていません。私は日本感性工学会の副会長として2017年から活動していますが、企業と密接に関連をもっている先生方も多く、その重要性を理解しています。企業を単に研究のためのスポンサーとみるのではなく、企業と一緒にやっていかないといい研究ができない、というスタンスが強い学会だと思います。

額田:感情分析がニーズに結びついて社会実装することができれば、とても嬉しいことです。

大倉:脳波の計測は45年前から、感性に応用し始めてから15年が経ちます。ニーズ型を意識して五感の感情分析も行ってきましたがなかなか応用されていなかったので、社会課題解決の役に立てればと強く思っていたところでした。同じ想いで、ぜひ協力したいです。

感性を評価することとは

額田:感性、感情、情動というものの関係性についてお聞きしたいのですが。

大倉:情動は食欲などの本能に近い部分です。それに対し、感情はもう少し理性的な部分があるのかなと思います。感性は、例えば、「わび・さび」は赤ちゃんには分からない。「渋い」という「味わい」はある程度オトナになって、価値観が洗練されて初めて芽生えるものといえます。それが感性です。

額田:人間は「食べたい」と感じてもおなかがすいているのに「今は食べない」とか、好物でとても食べたいけれどダイエット中だから「今日は結構です」とか。感性は先生がおっしゃったように、その人のライフスタイルの背景や歴史がものすごく関わって出てくるものだと思います。

大倉:感性評価というのは正にそのとおりで、本当はその人の生まれてから今までのすべての要素を把握したいくらいです。その人の生きてきた歴史で今の価値観が作られていて、その価値観に基づいて感じることが、本当のところだと思います。

知覚から脳波を捉え、感性を知ることへのチャレンジ

額田:先生は2017年に、『「かわいい」工学』という本を出版されています。様々な研究で用いられるラッセルの円環モデルの第一象限を中心に、「かわいい」という情動に特化して研究されているものですね。

大倉:ラッセルの円環モデルは情動を快―不快の横軸、覚醒―沈静の縦軸で2次元上に表し、各象限に感情をプロットしたもので、私の研究はポジティブな象限に着目しているものです。「かわいい」情動や、「ふわふわ」「モフモフ」といった触覚への反応の解釈です。

額田:先生には既にSOOTHの取り組みをご覧いただき、ご評価いただいておりますが、先進的、画期的など、どの部分が評価に値するとお考えなのでしょうか?

大倉:EMBC(※1)やACII(※2)といった海外の主要カンファレンスでも、生体信号側をまず起点とし、そのアプリケーションとして感性がある、という構図が基本になっています。しかしSOOTHは、人の心を動かすコンテンツを作りたい、という視点からそれを評価する手段として生体反応に行き着いた。そこが画期的だと思います。生体反応のデータ処理方法や機械学習を用いた解析結果を導くための必要なプロセスを、適切な論文を参考にしながら正しく進めようとしているところが、とても良いと思います。

額田:先生に随時お力添えいただきながら、よりスムーズに進めていきたいと思います。

大倉:脳波から感性を知る解析手法が今は確立していませんが、鋭意チャレンジする形で、その方法論の精度を上げるという一歩一歩の取り組みに価値があります。

感情の数値化と機械学習でのモデル化

額田:SOOTHは脳波の解析に機械学習を取り入れるようになりました。より信頼性の高いモデルを一歩ずつ目指しています。

大倉:小さく行いながらも機械学習でモデルができて、モデルができたらアクチュアルな脳波データを加工します。加工する前と比較することで、ブラックボックスをホワイトボックス化でき、経営者の方へ説明するための、結果に対する深い解釈、ヒントが得られるのです。ニューラルネットワークに対する議論は何十年も前からありますが、これを使うことで今までできなかったことができるようになってきています。

額田:大変興味深いお話です。先生が取り組む「かわいい」の数値化や評価をする際、機械学習をかなり使われたのでしょうか?

大倉:先の出展ブースで脳内モニターを体験したタイ人女性は、「かわいい」の機械学習のモデルで博士号をとった私の研究室の学生です。一般に機械学習の判断基準は説明できませんが、化粧品のボトルをたくさん評価してモデル化した後に、加工しながらモデルの出力の変化を見ることで、丸っこい方がかわいい、といった結果を導いています。

今こそ、人間の感性や感情をマーケティングに活かす

額田:SOOTHは人間の感情と行動に対する洞察を深めて、体験設計を通じて人をとりまく環境をより豊かに心地よくしていきたい、それによって人がもっとポジティブな気持ちになったりする、そういう生き方へのお手伝いをしたいという経営理念があります。親会社のAOI Pro.は人の心を動かしたいと思い映像を半世紀以上つくり続けている会社です。SOOTHはもちろん映像も含めた空間というコンテンツをデザインします。人をポジティブへ導きたい、という想いは、グループ会社全体も同じです。

大倉:SOOTHへのジョインはとてもワクワクしています。皆さんセンスよく一生懸命やっていて、ディスカッションも楽しいです。マーケティングの世界に感情を使うことはとても必要とされていると思いますし、ちょうどいい時期だと思います。

額田:これからは脳波がもつ意味、解釈、意味付けを、分かりやすく、実践的に活用できるようにすることを課題と捉えています。その課題を解決していくためにも、今後とも色々なアドバイスを、よろしくお願いいたします。

※1 International Engineering in Medicine and Biology Conference
(生体医工学の国際会議)
※2 International Conference on. Affective Computing & Intelligent Interaction
(コンピュータで人間の感情や情緒を理解・表現する研究分野の国際会議)

プロフィール

大倉典子
芝浦工業大学 工学部 情報工学科 教授
博士(工学)、日本学術会議 第三部会員
日本バーチャルリアリティ学会 フェロー
日本感性工学会 副会長

東京大学工学部計数工学科卒業、同大大学院工学研究科修士課程修了。㈱日立製作所中央研究所等を経て(その間に東京大学大学院工学研究科博士後期課程修了)、1999年4月より現職。インタラクティブシステムの生体信号による感性評価や福祉工学やユーザエクスペリエンスの研究に従事。

額田康利
SOOTH株式会社 代表取締役 CEO

慶應義塾大学卒業後、みずほ銀行で21年間、法人営業、経営企画、人事、新サービスの企画開発等に従事。 2013年AOI Pro.入社後はグループ経営戦略を担当し、2017年から2018年にかけて常務執行役員として事業部門副統括、体験設計部管掌を担当。 2018年に体験設計事業に特化したグループ会社としてSOOTHを設立し、データを活用したソリューション提案を行う高付加価値ビジネスの展開に邁進している。

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